学校保健部会主催セミナーでの事前質問事項

1Q:小学生のうちからスポーツ障害が出るような運動をすることに疑問を感じています。正しい運動の進め方、そして現在のスポ少指導者の認識について、親の考え方などの現状が知りたいです。

1A:身体が未成熟なうちから、激しい運動やウエイトトレーニングは未発達な筋肉や関節、靱帯に過度な負荷がかかることで、関節や筋肉に疲労がたまりやすい状態になってしまいます。 このことが原因で重篤なスポーツ傷害を引きおこすことは少なくありません。 小学生のうちは週2~3日くらい適度に休息をとりながら楽しくゲーム感覚でスポーツを楽しむことが理想なのです。 しかし現実は子供と親、スポーツ指導者(学校の監督及びスポーツ団体指導者)がスポーツに対する勝敗にこだわるあまりスポーツ障害を生じさせていることは否定できません。 人間の筋肉や関節は12~14歳ごろから効率的に発達しますので、無理なく身体を鍛えるには、その頃からトレーニングを集中して行うことが理想なのです。 しかし日本ではその頃の年齢は高校受験と重なり、これがスポーツ関係者のジレンマとなっていることに、このような背景があるのです。 また小学生のうちからスポーツ傷害を持っていると、中学そして高校と進んでいくうちに、痛みが常にともなう日々のトレーニングに、極度なストレスを感じるようになり、 そのためスポーツを完全に止める選択をしてしまう、言わば「燃え尽き症候群」に陥る子供が多くなってきています。 これらのトラブルを最小限に防ぐには、小学生のうちは、あまり無理させないトレーニングメニューを組むことが第一です。 また怪我やスポーツ傷害に対する知識を、スポーツ指導者をはじめ親や子供に徹底した教育を行うことが重要であると考えます。 もし子供が怪我をしてしまった時は勇気を持って、練習や試合を休ませるとともに、落胆している子供をスポーツ指導者と親が一緒になって、 子供のメンタルケアを十分に行うことが大切なのです。

2Q:特別クラブ(本校では少年野球)で野球肘と診断を受けた児童がいます。こういったスポーツ障害を予防するためにはどうしたらいいか? また、担当の先生にどういった点で気をつけて(練習面で)もらったらいいのか。という点について勉強したいと思います。

2A:小学生のうちは身体の関節や骨格が未成熟なため過度な練習は禁物です。 野球肘は投げすぎ(オーバーユース)によるものと、肘のねじりを頻繁に行うこと、適正な投球フォームで投げられていないことが原因と考えられています。 また練習や試合をした後は筋肉や関節に熱を持つために、肩や肘を冷却(RICE処置)を2回以上しなければなりません。 これを怠ると筋肉疲労により、筋肉と皮膚の間のリンパ管に乳酸や発痛物質が溜まることで、筋肉の緊張と痛みを引き起こすことになってしまうのです。

3Q:スポーツ障害については小学生から見られ、私自身どのように対応して良いかよくわからないでいます。 小学生の時期からテーピングや湿布を貼って病院に通いながらスポーツクラブの活動を続けることに疑問を感じることもあります。

3A:スポーツ傷害については前述のように様々な要因でおきているということです。 ここでは湿布についてお話しします。学校内では、子供が打撲やねん挫、肉離れなどを受傷した場合は、即座に患部に湿布を貼ることが多いかと思います。 受傷した際に、先ずは冷却することが一番適正であるということで湿布する判断に至るのだと思います。 しかし果たして湿布は最善の治療法といえるのでしょうか?また湿布と冷却(Icing)は、同じ効果なのでしょうか。 そのことを考える前に、なぜ冷却が受傷の治療になるのかを考えなければなりません。 それは冷却する目的は大きく分けて三つの効果にあります。 そのひとつに、冷却による患部の麻酔効果(鎮痛効果)と、二つ目には、受傷患部の細胞の壊死を防ぐ効果、また三つ目に、血行リンパの流れを促進する効果です。 まずひとつ目の鎮痛効果を説明します。人間は冷たいと感じる感覚は、痛いと感じる感覚よりも、脳に伝わる速度が速いので、患部を冷却すると痛みの感覚を、 冷たいと感じる感覚に置き換えて、痛みを軽減させる、これが鎮痛効果になるメカニズムです。 二つ目は、患部の冷却により血管を収縮させ血行を遅らせます(新陳代謝を低下します)。 これにより腫れや炎症によって起きる発熱を最小限に抑えることができます。発熱や腫れが大きいければ大きいほど壊死する細胞が多くなります。 ですから壊死する細胞が最小限度であれば、体から取り除かれる壊死した細胞(廃棄物)も少量で済み、患部の回復も早期になるのです。 それゆえ冷却には細胞の壊死を最小限に防ぐ効果があるのです。 三つ目は、受傷した患部は筋肉の緊張により、毛細血管が収縮状態になります。 これが患部の細胞の酸素欠乏により、異常代謝が起きてしまい、患部の血行リンパ液が流れにくくなってしまうのです。 それが患部の冷却直後は完全収縮する毛細血管が、冷却を止めることで毛細血管は、ある一定の時間(約分~分)が経つと、 今度は逆に拡張するという現象(リバウンド現象)が起こります。 このことで血行リンパ液の流れがスムーズになり、末梢神経を刺激している発痛物質が取り除かれて、正常代謝がおこなわれるようになり、緊張していた筋肉が、 もとの正常な筋肉に戻っていくのです。以上これらの三つの効果が冷却する最大の目的なのです。 前述した湿布薬は、実はこれらの効果が逆に損なうことになってしまうことが多いのです。 それはなぜかというと、冷却の目的である細胞の壊死を防ぐ効果が、湿布を貼ることで反対に患部の新陳代謝率を促進させてしまい、 その結果、受傷部位の発赤や腫れを増大させることになる、つまり細胞の壊死を逆に増大させる結果になってしまうのです。 近年では湿布薬も改良され新陳代謝率を抑えるものも市販されていますが、まだまだ高価なために一般には使用されていないのが現状です。 ちなみにスポーツの試合などでよく目にしますコールドスプレーは瞬間的に痛みを緩和させることを目的に使用するものです。治療効果は全くないといってもいいでしょう。 受傷したならば即座に氷水(低温障害に注意!)もしくは冷却専用パックなどで冷却することが、怪我を最小限にする一番の治療法といえるのです。

4Q:最近、疲労骨折やまたはそれに近い症状の診断を受ける症状がみられます。部活動との関係が見られるのですが、予防点などがあれば教えていただきたい。

4A:基礎体力および筋力を向上させることが怪我の第一の予防なのです。個人の体力や体質に合わせたトレーニングメニューを組み立てることが重要になります。 ひとりひとりの体力に合わせた練習やトレーニングを行うことで、決してオーバーユースをさせないように注意します。

5Q:オスグットシュラッテル病について詳しく知りたい。痛みはどの程度のものを様子を見て、どの程度で病院に行くことを勧めたらよいのか。

5A:オスグッド病とは、大腿前面の筋肉(大腿四頭筋)がひざ下の骨(脛骨粗面部)に付着する所での障害で、成長期のスポーツを行う少年によくみられます。 成長期ではこの付着部が軟骨であるため、スポーツなどで大腿四頭筋の力が繰り返し加わると炎症や剥離が生じ、その部分が突出してくるものと考えられています。 したがって、骨が成長してしまうとこのような障害はなくなってしまいます。多くは痛みがスポーツ活動と関連しており使いすぎが原因です。 《処 置》この障害は足の使い過ぎが原因ですから、先ず休息をとることが重要です。先ず練習時間を半分にして2週間単位で症状をみて再び練習量を増やしていきます。 予防や症状の軽減にストレッチングをかかさずに行うことが重要です。運動後の痛みに対しては練習後のアイシングを用います。また伸縮テーピングも有効です。 《予 防》大腿四頭筋や大腿二頭筋のストレッチングと強化が重要です。運動時痛や症状再発防止に対して有効で練習前後に行います。

6Q:スポ少野球部に所属する子どもが訴える関節痛に対して処置について悩むことが多々あります。 慢性的なものになると、本人も親も医療機関での受診をやめてしまったり、患部の休養が必要なのに試合等があるため参加しています。 週1回だけの休み以外は土・日・祝日もなく参加している子ども達の体は大丈夫なのでしょうか?親への効果的な指導はどういうものが良いのでしょうか。

6A:スポーツをさせるにあたって本人や親に自覚をしていただくことが重要です。 小学生そして中学生、高校、大学、社会人またノンプロおよびプロ選手と進んでいくことを想像させ、子供や親がどの地点を重要視するのかを考えさせることだと思います。 たとえば小学生や中学時代に猛練習をしたあげく、スポーツ傷害をかかえてしまうと、当然それ以上の学年で大成することが困難になってしまうのです。 今は試合や練習を休み、治療に専念することは本当に辛いことでも、将来あなたが成功するためには、 今真剣に身体をだいじにすることが適正な判断であると納得するまで説得し続けることが重要なのです。 急がば回れの精神を教えてください。はじめからの全力疾走は途中挫折が多いものです。

7Q:テーピングはスポーツの時だけするものではないのか?(1日中テーピングしている子もいるのですが、大丈夫なのか)

7A:テーピングには様々な種類と方法があります。ひと頃はテーピングというとスポーツテーピング(固定用ホワイトテープ)を意味していましたが、 近年では伸縮テーピングを指すことが多くなりました。 ホワイトテーピングは受傷部位を固定し、関節可動域の制限により短時間の運動時の痛みを軽減する目的で用いられています。 当然治療テーピングではないので、練習や試合が終わったらすぐに剥がさなければなりません。(圧迫により腫れと血行障害を生じてしまいます。) また近年の伸縮テーピングは治療を目的に開発されています。このテーピングは患部を圧迫しないので1日から2日間はそのまま貼っている方が効果的です。

8Q:学校の生徒全体が体力不足です。少し無理をさせるとすぐに疲れてしまったり怪我をしたり、どのようにトレーニングをさせればいいのでしょうか。

8A:身体を動かす反復練習(アイソトニック)や走り込み(有酸素運動)とウェイトトレーニング(アイソメトリック)をバランスよく組み合わせ、 個人の体力に合わせたトレーニングメニューを組むことです。そのためには個人の体力や筋力、運動神経の敏しょう性をスポーツ指導者が把握しておかなければなりません。

9Q:正しい冷却方法を教えてください。

9A:応急手当 RICE処置法について(打ち身・捻挫・打撲・肉離れ・挫傷・筋緊張の緩和など)
RICE処置とは各処置法の頭文字を取り表したものです。
REST・ICING・COMPRESSION・ELEVATION
REST・安静にす(レスト)
●試合や練習を一時中断して安静にすることは、どんなケガであっても同じです。 運動中止直後の安静は腫れや炎症を抑え、出血を最小限に食い止めることができます。 固定には副木を利用するのが最適ですが、無ければ手近にあるダンボールや板など何でも構いません。
●その後の処置による患部の安静にはテーピングやギプス、松葉杖やクラッチの補助を用います。 障害個所を早く動かしすぎると内出血などを増すだけでなく、機能障害も悪化させる恐れがあり、回復を長引かせます。 ケガの状態を満足に確認しないままプレーを続行するのは避けましょう。
ICING・患部を冷やす(アイシング)
●突き指や捻挫、靭帯の損傷、骨折、打撲などではほとんどの場合、内出血と腫れが見られます。これらを最小限に食い止めるもっとも有効な手段が冷却です。 腫れ上がる前、つまりケガの直後に行うのがポイントです。
●受傷後の冷却は組織の代謝を下げ、組織が必要とする酸素の量を減らします。その結果、組織の壊疽を防ぎ、周囲の正常な細胞を守ることになるのです。 しかし、長い間冷やしすぎると細胞もダメージを受けてしまいます。
●最良の冷却方法は、氷を使ったアイスパックを皮膚に直接当てることです。凍らせたゲルパックはアイスパックよりも冷却温度が低いので、皮膚に直接当てないようにします。 アイスパックを当てている時間は最高20分にとどめ、感覚がなくなればそのときに取り去ります。そして寝るまで1時間半から2時間ごとに冷却を繰り返します。 障害の程度や範囲によって72時間これを続けます。
●ここからは、冷却時の注意事項について具体的に解説します。 冷却する時間は20分程度が一般的ですが、その人の体質などによって適切な冷却時間は異なります。そこで、時間の目安とともに自分自身の感覚も目安として利用します。 冷却するとまずジーンとする痛みを感じます。その痛みはやがて暖かく感じられるようになり、その後ぴりぴりと針に刺されるように感じます。 そして、最終的に感覚がなくなります。即ち、冷却によって痛い→暖かい→ぴりぴりしびれる→感覚がなくなるという四つの段階をとおるのです。 これを通り越して再び痛みが出始めたら、凍傷の危険性があるので冷却を止めます。基本的には感覚がなくなるまで冷却することです。
COMPRESSION・圧迫する(コンポジッション)
●ほとんどの急性の障害では、すぐに圧迫を加えることは冷却と高挙とともに重要であると考えられています。腫れてくる前、つまり冷却と同時に行うのが理想的です。
●患部を圧迫することは、内出血と血腫の形成を軽減します。また圧迫することで組織間に浸出液が浸透するのを防ぎ、その吸収も促進します。 ただし、あまり圧迫が強いと血液などの循環がわるくなり、症状を悪化させる可能性があるので注意が必要です。
●障害をうけたら、腫れが出てきそうな部分にパッドやフェルト、スポンジなどを当てて軽く圧迫する程度に包帯やテープを巻きます。 このとき、水につけたパッドを冷凍室で冷やしておいたものがあれば、圧迫と冷却を同時に行うことができます。 また、ぎりぎりと締め付けるようにはせず、パッドがずれない程度にやや強く巻くようにします。冷却は断続的に行いますが、圧迫は一日中続けます。
ELEVATION・患部を高い位置に保つ(エレベーション)
●エレベーション(高挙)とは、患部を心臓より高い位置に持ち上げることです。冷却・圧迫とともに高挙は内出血の軽減に役立ちます。
●患部を心臓よりも高い位置に持ち上げることで、流れ込む血液やリンパ液の量が減り、逆に出て行く量が増えるので、腫れを抑えて早く引かせることができるのです。